僕がAGA治療を始めたのは、32歳の時だった。フィナステリドとミノキシジル外用薬の併用で、半年もすると、自分でも驚くほどの効果が現れた。薄かった頭頂部は密度を取り戻し、後退していたM字の生え際には産毛がびっしりと生えてきた。鏡を見るのが楽しくて、自信を取り戻した僕は、仕事もプライベートも順調そのものだった。そんな治療開始から2年が経った頃、ふと「もう薬を飲まなくても大丈夫なんじゃないか?」という、悪魔の囁きが聞こえ始めた。毎月の出費も馬鹿にならないし、このまま一生続けるのかと思うと、少し憂鬱になったのだ。そして、僕は医師に相談することなく、自分だけの判断で、薬をぷっつりとやめてしまった。最初の1ヶ月、2ヶ月は、何も変わらなかった。「ほら、やっぱり大丈夫だったんだ」。僕はそう高を括っていた。しかし、3ヶ月目を過ぎたあたりから、異変は静かに始まった。シャワーの時の抜け毛が、明らかに増えたのだ。そして、髪をセットしても、以前のようなハリやコシがなく、ぺたっとしてしまう。半年後、鏡に映っていたのは、治療を始める前よりも、さらに薄くなった自分の姿だった。一度手にした希望を失うことの絶望感は、想像を絶するものだった。時間も、お金も、全てが無駄になった。自分自身の愚かな判断を、僕は心から呪った。もう一度クリニックに行くのが、怖くて、そして恥ずかしかった。しかし、このまま悩み続ける人生はもう嫌だ。僕は、砕け散ったプライドをかき集め、再び同じクリニックの扉を叩いた。医師は、僕を責めることなく、「また、一緒に頑張りましょう」とだけ言ってくれた。その一言に、僕は救われた。再治療の道は、一度目よりも精神的に辛いかもしれない。でも、もう僕は迷わない。AGA治療は、自分自身との、そして昨日の自分との、長く、地道な戦いなのだと、今度こそ理解したからだ。
一度AGA治療をやめて絶望した僕が再び立ち上がった話