男性型脱毛症の中でも特に多くの日本人男性を悩ませているのが額の両サイドから剃り込みを入れたように薄くなっていくM字型脱毛ですがなぜ生え際ばかりがこれほどまでに狙い撃ちにされ治療抵抗性が高く治りにくいのかという疑問には解剖学的および生理学的な明確な理由が存在しておりそのメカニズムを知ることは敵を知り己を知るための第一歩となります。まず第一の要因として挙げられるのが遺伝的な酵素の分布でありAGAの原因物質であるジヒドロテストステロン略してDHTを生成する5αリダクターゼという酵素にはⅠ型とⅡ型の二種類が存在しますが特に強力な作用を持つⅡ型5αリダクターゼは前頭部から頭頂部にかけての毛乳頭細胞に集中的に存在しているため側頭部や後頭部の髪はフサフサなのに生え際だけが薄くなるという典型的なAGAのパターンが形成されるのです。このDHTは毛母細胞に対して「成長を止めろ」というシグナルを送るだけでなく毛根周辺の毛細血管を萎縮させて血流を悪化させる作用もあると考えられており栄養補給路を断たれた毛根は兵糧攻めに遭った城のように徐々に弱体化していき最終的には砂漠のような不毛の地となってしまいます。そして第二の要因にして生え際の治療を困難にしている最大の理由が頭皮の構造的な問題であり解剖学的に見ると頭頂部から前頭部にかけてのいわゆる「帽状腱膜」と呼ばれる部分は筋肉が存在せず皮膚と骨が直接接しているような状態にあるため血管の数自体が少なく血流が滞りやすいという致命的な弱点を抱えています。これに対して側頭部や後頭部は筋肉に覆われており常に筋肉の動きによって血流がポンプのように促進されているため栄養が行き渡りやすくハゲにくいという対照的な環境にあるのです。さらに生え際付近は顔の表情筋の動きや重力の影響を受けて皮膚が引っ張られやすく常に緊張状態にあるため頭皮が硬くなりやすくこれがさらなる血流不足を招くという悪循環に陥っています。このように生え際はホルモンの集中攻撃を受ける激戦区であると同時に兵糧となる血液が届きにくい兵站線の伸びきった最前線という二重苦を背負った過酷な環境にあるため飲み薬で体内のDHT濃度を下げたとしてもそれだけでは十分な効果が得られにくいという現実があります。そのため生え際を復活させるためにはフィナステリドやデュタステリドといった内服薬で敵の攻撃をブロックする「守り」の戦略に加えてミノキシジルという血管拡張作用のある薬を外用または内服して強制的に血流を増やし毛根に栄養を送り込む「攻め」の戦略を組み合わせることが絶対条件となります。特に塗り薬のミノキシジルは生え際のピンポイント爆撃に有効ですが頭皮が硬くなっていると成分が浸透しにくいためマッサージなどで頭皮を柔らかくする下準備も欠かせません。M字部分の毛根が完全に死滅して毛穴が閉じてしまい皮膚がツルツルになってしまった場合はいかなる薬物療法も効果を発揮できず植毛手術しか手立てがなくなるため毛根がまだ生き残って産毛を生やしている段階でいかに早く治療を開始できるかが勝負の分かれ目となります。
M字型脱毛の残酷なメカニズム